固定資産評価のすれ違い

固定資産税は市町村が毎年1月1日の所有者に対し課税する附加税である。
申告制ではないため、一斉に公平な課税をしなければならない。 土地については、公正を図るために時価を不動産鑑定士に求めることになってから15年以上がたった。しかし、その依頼方法のために齟齬が生じることが懸念されている。

点の評価をする鑑定士サイドと、面全体のバランスを考える市町村との齟齬である。

市町村は、不動産鑑定士に対し標準宅地の評価額を出すよう求める。その標準宅地の価格から市町村が個別の価格を求める方式である。 市町村から鑑定評価の依頼を受けた不動産鑑定士は、依頼された地点の価格を調べ、判断し、担当した地点の評価バランスを考慮した上で各地点の鑑定評価額を決定する。 この場合に、不動産鑑定士が求める価格はその標準地そのものの価格であり、点としての価格である。価格は時価であるから、株式市場のように常に変動し、5%くらいの上下は常に変動の範囲である。相場観について強気の人がつける価格と弱気の人には5%くらいの開きがあっても不自然ではない。 目の粗い点の評価にあっては、同一の評価主体が逆転する評価をすることはおかしいから注意するが、その価格差にはあまり注意を払わない。 ところが、市町村はそのエリア全体の面的なバランスを考えたい、その一方で、最近の風潮か、入札によって安価な鑑定士に頼もうとする。 もちろん、入札の条件として他の不動産鑑定士と価格バランスを協議することという条項は入っている。しかし、入札に応じた鑑定士には自分の仕事を全うする責任はあるが、他の不動産鑑定士の世話をする義務はない。自分の提出した価格を他の不動産鑑定士に報告し、相手が応じなければそれ以上のことは行わない。低い入札金額を入れる根拠は、最低限の作業を基に積算したものであり、周辺との価格バランス協議をする会議を開いたり、価格調整のために作業をやり直すことは想定外である。 市町村が求める、エリア全体の価格バランスを考えた時価評価を出すには、同じ尺度で価格を考える必要がある。しかも多数地点になると距離的なバランスだけでなく、商業地、工場地のように同一用途間のバランスなど様々な角度から検討し直す必要がある。この場合には、一人の鑑定士ではなく複数の鑑定士による相互チェックが求められる。ならば、何人も鑑定士が所属する大手不動産鑑定業者にまかせればよいという声もあるが、同一の鑑定業者では独立した鑑定士の複数の目であると言えるのか、疑問である。 医療における「セカンドオピニオン」のように、独立した鑑定士の判断を経ているかが重要なのである。 固定資産標準宅地評価は、不動産鑑定士が行う仕事として、大きなウェイトを占めるとともに、市民の身近な評価であるから鑑定士の信頼性を支えるものである。 したがって、固定資産標準宅地評価の精度を上げるために努力を惜しむべきではない。そのため、川越地区では担当する不動産鑑定士は価格について連帯責任を持つ意気込みで全地点の評価を行っている。自分の担当地点だけではなく、誰が担当であるかの区別なく、順番に価格バランスを検討して価格を決めていく。依頼の契約書にはそこまでの記載はないが、行っている。 信頼関係を持った鑑定士の分科会であるからできることであり、入札で入ってきた人がいたとしたら同じようにはできないだろう。また、入札者も連帯責任の意識がないだろうから、会議にも加わるとは思えない。 固定資産標準宅地評価は、評価書を提出した時点ではなく、それを基に課税が行われてから問題が明らかになる。評価の時点からすると2~3年先になる。価格について疑問を投げかけられたときに適切な説明ができるのだろうか、遠隔地にいる入札者は、対応をなかなかしないだろう。しかし、地元に生きる鑑定士は逃げることができない。 固定資産標準宅地評価は、時価を求めるだけではなく、市町村内部と隣接市町村間のバランス、さらには全県における価格バランスを持った価格を求めるものである。担当者が衆知を集めて検討し、悩み抜いて出す価格である。 担当者は誰でも良いというわけにはいかない。地元に精通するとともに、アフターサービスまで責任を持てる人でなければ価格に責任を持ったとは言えない。 わが子が重い病気にかかっているときに、数人の医者を集めて入札をさせるだろうか 入札に応じる医者がいるとすれば、後で医療過誤裁判を求められないような、無難な方法を採用し、患者本人の生命や術後のことよりも医者自身のことを考えるだろう。 それは、患者のためになるものではない。 相続税の申告をした人に文句を言われたことがある。 複数の税理士に入札をさせ、最も低い税理士に頼んだが、思ったよりも高額納税となり、「税金が高くなったのは不動産鑑定士が評価した相続税路線価が高いからですよ」と言われたという。 八つ当たりをされたのも困ったが、入札した税理士は、税務署が納得するような無難な申告書を作ったに過ぎない。納税者本人のために納税のテクニックを駆使するようなことはしなかったのだ。納税者は結果として損をしたのである。 工場生産のモノを納めるように、規格がはっきりしていて誰が行っても結果に違いがないものは、入札制度は良い制度である。ところが入札制度には向かない作業、仕事があることに気がついていない役人がいることは市民としても悲しいことである。
鑑定評価は(有)埼玉不動産鑑定所へ