親の介護と相続

親の面倒を見た息子に辛い相続争いが待っていた。

Aさんは長男。弟と妹が居る。
一人で住んでいた母親も年齢とともに弱ってきた。一人住まいではなにかと不安
と考え、母親はAさんの意見を受け入れ、老人ホームに入居した。
父親が残してくれた預金と年金があるから、当面の生活は困らない。
おカネのことはAさんが取り仕切ることになった。

やがて10年が経ち、母親は亡くなり、Aさんは相続を考えることになった。

遺産は、自宅の土地建物とわずかに残った預金。Aさんと弟は不動産を売って3人で均等に分けようという考えだ。

一方、妹は言いました。
「母親の銀行口座から兄が引き出したお金は、まとまった金額だけでも3000万円あります。これは生前に兄がもらった特別受益ではないのですか。何に使ったのか明らかにしてくれなければ、兄がもらったものとすべきです。」

Aさんは、2カ月に一度程度母親の銀行口座から50万円を引き出すことにしていた。
老人ホームや時々かかる病院の医療費、母親の自宅の固定資産税や光熱費など、細々とした経費に充てるように、銀行から出したお金は母親のバッグに入れておいたのだ。

私  「費用の明細はありませんか?
引き出したお金はどこかの銀行口座に入れて口座引き落としになっているのでは亡いですか?」

Aさん  「毎日の仕事が忙しいので、その都度銀行に行っているわけにはいかないのです。母親のバッグにある現金から支払い、領収書はそのバッグに入れておきました」

私「領収書を基にして、支払いの一覧表は作れませんか?」

Aさん  「こんなことになると思っていなかったので、所得税の申告が終われば処分してしまいました。
これまで妹は親の面倒を全く見なかった、それも具合が悪くなってからも見舞いにも来ず、亡くなったら葬儀の日だけ来た。そして相続登記のことを言ったら、預金をくすねただろう、なんて妹は身勝手すぎる。」

妹は強硬でした。
このままでは調停ではまとまりそうもありません。

妹に対して私は言いました。
「今の状態のままでは調停が成立する見込みはありません。調停が不調になれば遺産分割は審判に移行します。裁判官が判断することになるのですが、そのときは不動産だけが対象になります。預金は対象になりません。次に特別受益の扱いですが、老人ホームの費用は一月20万円近くかかっていたようですね。そうすると一年で240万円、10年では2400万円。あなたが使途不明という3000万円のうち8割はお母さんのために使ったのは明らかではないですか。老人ホームの外にも細々としたお金はかかるでしょう。残りの600万円のうちかなりの額はそうしたおカネではないでしょうか。それと、審判になればAさんは寄与分を主張するでしょう。10年間お母さんを支えたのは、AさんだけとなるとAさんの寄与分がゼロとはならないかもしれません。その場合、不動産の分割も3分の1ではなくなることが考えられます。調停でまとめた方が良いと思いますよ」

「きっちり3分の1になるようにして欲しい、売る段階で協力が得られないと嫌だから、私の代理人弁護士に売却手続きを一任して欲しい」

妹さんの提案に兄弟は不満はなかった。

Aさんの介護~遺産分割 何が悪かったのでしょう。
どうすれば、紛争に巻き込まれなかったのでしょう。

一番良い方法は、お母さんに「預金の管理を兄お願いする。そのかわり残った預金は兄相続させる」との公正証書遺言を残してもらえれば良かったのです。
そうでなければ、面倒でも、入出金の内容が分かるように記録を残しておくべきです。簡単な方法は、通帳の金額欄にメモを書き、領収書を保管するだけでも良いのです。

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